この話は私の作家生活20周年記念として書いた「胸さわぎシリーズ」の最新書き下ろし番外編です。
このシリーズは私の代表作で、本編だけでも8冊(+続編シリーズ「誘惑のスウィートロマンス」1冊)も出ましたし、ドラマCDも9枚出ました。
同人誌でも何冊も書いていたのですが、コミケに最後に出たのが10年前で、番外編を書いたのはそれ以来なの…
「それで……オレになんの話が……?」
そう尋ねると、彼は真剣な眼差しを向けてきた。
「この間、偶然会って、あれからいろいろ考えたんだ。僕は明良と別れて、自分の道を進んだ。だけど、明良のことは裕司を通して、いつも知っていたんだよ」
「え……どうして?」
彼が鷹野と親友であることは判っていたし、今もそうであることはな…
それから数日後のことだった。
明良はいつものように会社から帰宅するために電車を降り、改札を抜けたところで凍りついたよう足を止めた。
そこにいたのは優だった。
「やあ……明良。久しぶりだね」
今度は偶然などではない。彼は明良を待ち伏せしていたのだ。明良は一瞬逃げ出したい気持ちになったが、なんとかその衝動を押し留…
『明良はいつだって可愛いよ』
そう囁く彼の声が、今も明良の耳に残っている。
藤島優……。
それが明良の恋人の名前だった。
それは高校生だった頃のこと。懐かしい少年時代のことだ。あのとき、優は明良のすべてだった。
彼は一学年上なだけだったが、童顔の明良よりはるかに大人っぽかった。
『明良は僕のもの…
夜空には小雪が舞い散っていた。
明良は溜息をつき、スーツの上に羽織ったコートのポケットに、ビジネスバッグを持たないほうの手を突っ込んだ。
会社の上司に誘われた飲み会が終わり、居酒屋から帰ろうとしているところだ。酔った上司をタクシー乗り場まで送り、明良は駅へと続く道を歩き出した。
「羽岡先輩……!」
名前を呼ばれ…
この話は恋のうちシリーズの最終巻のその後ってところでしょうか。厳密に言うと、最終巻のおまけ(浅見と幸村の会話)のその後かな。
著書が100冊に達したときにサイトでアンケートをしたのですが、答えてくれた方にお礼として限定公開したものです。でも、あれからもう5年(?)くらい経っているから、皆さんに公開してもいいかなって思って。
…
夕食時間の前に、寮のホールには生徒が集められた。満員のホールでは、みんながざわめいている。これから何があるのか、もう噂が伝わっているからだ。
浅見と幸村が壇上に登る。そして、浅見がマイクを手に取り、挨拶を始めた。甲斐は横のほうから、その様子をじっと見ていた。
浅見によると、長年対立してきた生徒会と寮自治会の和解ということら…
屋上に行くと、確かに大河がいた。
転落防止の柵につかまって、じっとしている。甲斐は近づいていって、その肩にそっと手をかけた。
「大河君、もうすぐ昼休みが終わるよ」
顔を覗き込むと、目に涙を溜めている。甲斐はその気持ちがいじらしくなって、自分のほうに向かせると、柔らかく包むように抱きしめた。
「……甲斐の馬鹿」
…
「なあ、甲斐! 幸村さんと浅見が和解するって本当か!」
幸村が去った後、次に現れたのは大河と光希だった。二人はルームメイトになってから、かなり親しくなったらしい。
それにしても、情報が早い。一体、どのルートで二人の耳にこれが入ったのか、甲斐としては気になるところだった。
甲斐は思わず溜息をついた。
すると、大河は急に…
晴天の霹靂……。
その言葉しか、今の甲斐京介の頭には浮かばなかった。
今は昼休み。血相を変えて、幸村が自分の教室にまで来ているからには、嘘や冗談ではないだろう。
しかし……。
「ちょっと待って。幸村……もう一回言ってくれ」
全寮制である祥鳳学園の元寮長・幸村隼人もまた、困惑した顔で、甲斐に告げる。
…
「微熱のムーンストーン」(ガッシュ文庫)の番外編です。
06年の冬コミおまけ本ということで、ちょうど「微熱の~」が発売されたばかりの頃ですね。この話、自分では気に入っていて、とても好きなんですよ~。
何よりマーセルがお気に入りです。金髪長髪攻が好物だし(笑)。もちろん狼に変身したところも素敵です。
傲慢で居丈高。策略好き。でも…
オレ――元島陽介は、連休を利用して、恋人の九条マーセル(マーセル・クジョー)と一緒に温泉へと出かけることになった。
秋の紅葉を見ながら温泉なんて風流だけど、わざわざアメリカから温泉旅行しにくるなんて、マーセルも物好きだな。
マーセルはルーマニア人と日本人のハーフで、白い肌と輝くような金髪の持ち主だった。世界的なマジシャンで…
これは「胸さわぎシリーズ」の番外編となっています。鷹野や優ちゃんの高校生最後の夏休み、ということで、7月末~8月初旬くらいでしょうか。でもって、葉月の誕生日(8/8)より前です。
彼ら、確かこの夏休み中にダブルデートで海に行ったんですよね。そういう番外編を書いた覚えがあります(ノベルズ収録済み)。だから、そのちょっと前の話になるか…
夜空に大輪の花が咲く。
今日は花火大会の日だった。藤島優は恋人の羽岡明良を連れて、この会場に花火を見にきていた。
辺りに人はたくさんいるが、暗いので、手を繋いだとしても判らない。そもそも、みんな、花火を見るために上ばかり見ているから、自分と明良がこうして仲良く寄り添っていることも、誰も気に留めないだろう。
「綺麗だね…
由也は鷹野と共にベッドへ移動した。
「いつもと反対だね……」
由也は鷹野の格好を見て、そう呟いた。
「何がだ?」
「先輩がほとんど裸で、オレが服を着ていて……」
いつもは逆のことが多い。一方的に脱がされて、喘がされてしまうのだ。だからといって、由也が鷹野を喘がせる役に回ることにはならないだろうが、なんだか…
山篠由也は困っていた。
何故かというと、恋人の鷹野裕司と花火大会に行く約束をしていたからだ。
いや、普通なら別に恋人と約束していたからといって、困るようなことではない。けれども、由也の父親はとんでもなく厳しい男だったのだ。
つまり、高校生が夜遊びなんかしちゃならん、と。
夜遊びといっても、別にクラブに繰り出すわ…
この話は「胸さわぎシリーズ」の番外編となっています。「胸さわぎのプロムナード」の後の話……というか、葉月が卒業してから初めての誕生日の話です。
葉月の恋人・慎平くんと、「誘惑のスウィートロマンス」に出てきた真先との初対面シーンですね。
相変わらず真先は葉月に対して超過保護です。これほど甘やかしているのに、葉月は単なる甘ったれでは…
「……そうか。本当におまえも大人になったんだな……」
真先はしみじみとそう言うと、改めて慎平のほうに目を向けた。もうさっきのような怖い顔ではない。どこか優しげな雰囲気だった。
「葉月を大人にしたのは君か……」
「あ、いえ……オレなんて、葉月先輩の何か役に立っているかどうか判らないような状態で……」
「いや、葉月が君を真…
葉月によると、真先というのは葉月を猫可愛がりしているという過保護な兄貴らしい。彼に紹介されるときには、それなりの覚悟を持って会わなくてはならないと思っていただけに、まさに最悪のタイミングだったということだ。
よりにもよって、葉月を抱きたいとダダをこねている最中に入ってくるなんて。
思え返せば、葉月が自分の部屋ではなく、わ…
「はい、アーンして」
口元に突きつけられたフォークに、松本慎平は困惑していた。
目の前にいるのは、慎平の恋人である西尾葉月。そして、今いるところは、葉月の家のリビングだった。
葉月の家はかなりの豪邸で、敷地も広いが、屋敷自体も普通でないほど広い。どのくらい広いかというと、建坪が慎平の家の敷地の倍くらいある。そして…